空の下の笑顔の樹
       ふふふん♪

 九月十八日土曜日、天気は爽やかな秋晴れ。新郎の優太さんは、純白のタキシードと小麦色の麦わら帽子。新婦のあたしは、じゃなくて、新婦の菓絵さんは、純白のウエディングドレスと小麦色の麦わら帽子。二十年もの時を超えた優太さんと菓絵さんの結婚式の出席者は、優太さんのご両親と菓絵さんのご両親。森川先生と菓絵さんのお絵描き教室に通っていた方々。優太さんの職場の方々とお友達の方々。菓絵さんのお向かいさんのおばあさんとご近所の方々。菓絵さんと優太さんと親交のあった方々。なぜかあたしのお父さんとお母さんと真奈美と友紀とアート仲間たち。みんなの駄菓子屋さんを経営していたおじさんとおばさん。空の下の笑顔の樹さん。総勢、三百五十一名。普段は人が少ない秘密の丘の上が大賑わい。こんなに人が集まったのは、菓絵さんと優太さんの人望の厚さだとあたしは思う。
「優太さん、菓絵さん、ご結婚、おめでとうございます」
 司会進行役の森川先生の挨拶で結婚式が始まり、駄菓子パーティー、似顔絵大会、写真撮影大会などの催し物が行われ、夕方になってから、オレンジ色の夕焼け空に向かって、みんなで一斉に紙飛行機を飛ばした。
 三百五十機もの紙飛行機で埋め尽くされたオレンジ色の夕焼け空。それはそれは見事な光景だった。

 結婚式が終わった後、優太さんがあたしにこう言ってくれた。

 美咲ちゃんは、これから自分の夢に向かって、自分の人生を歩んでいってね。

 あたしはあたしであって、私ではない。
 あたしは青山美咲であって、佐藤菓絵ではない。
 あたしは、これから自分の夢に向かって、自分の人生を歩んでいかなければならない。
 菓絵さんと優太さんの想いを大切にしながら。

 秘密の丘で結婚式を挙げた日から、不思議な感覚に襲われることもなくなり、菓絵さんの声は全く聞こえなくなった。
 あたしが菓絵さんの生まれ変わりなのかは定かではないけれど、長年の想いを遂げられた菓絵さんは、あたしの体から離れて、空の上の世界に戻ったのだと思う。あたしもいずれは空の上の世界に上がると思う。菓絵さんに逢える。菓絵さんと話せる。菓絵さんと一緒に絵を描ける。あたしには、とてつもなく大きな楽しみがある。その日まで、この世界で頑張って生きていかなければならない。

 空は何のためにあるのか。

 あたしは見上げるためにあるものだと思う。







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