空の下の笑顔の樹
       ふふふふふーん♪

 毎週土曜日の午後に、うまい棒と焼きとうもろこしとコーヒー牛乳を買いに来てくれた優太さんは、コーヒー牛乳の飲み過ぎで糖尿病になってしまい、空の下の笑顔の駄菓子屋がオープンしてから二ヶ月後に、突然の心筋梗塞でお亡くなりになられた。

 享年、六十三歳。優太さんの命日は、菓絵さんと同じ九月十五日だった。

 十月十五日水曜日、天気は爽やかな秋晴れ。駄菓子屋の店番は真奈美に任せて、あたし一人だけで秘密の丘に登った。今日も見晴らしが良い。
「美咲ちゃん、こんにちは。いらっしゃい」
「空の下の笑顔の樹さん、こんにちは。お邪魔します」
「駄菓子屋は順調かい?」
「はい。今のところは順調です。空の下の笑顔の樹さんも買いに来てくださいね」
「お金を持っていないし、ここから動けないから無理だよ」
「ふふふふふ。冗談ですよ」
 空の下の笑顔の樹さんとあたしはすっかり仲良し。
「今日は、お参りに来たのかい?」
「はい。お参りに来ました」
 お店から持ってきた五円チョコとうまい棒と焼きとうもろこしとコーヒー牛乳を空の下の笑顔の樹さんの根元にお供えして、目を閉じて手を合わせた。
「真奈美ちゃんは、お店番をしているのかい?」
「はい。真奈美は店番をしています。お客さんがいないときは、相変わらず時代劇ばかり観ていますので、本当に困ったもんです」
「まあ、仲良くやっておくれ」
「はい。仲良くやっていきます」
 あたしたち姉妹のことを気に掛けてくれている空の下の笑顔の樹さんと何気ない話をしているうちに、遠くの空がオレンジ色に染まり始めてきた。
「今から紙飛行機の手紙を飛ばしますので、見ていてくださいね」
「うん。見ているよ」
 空の下の笑顔の樹さんの前で、スケッチブックの間に挟んでおいた紙飛行機の手紙を取り出した。

 菓絵さん、優太さん、お元気ですか。あたしも真奈美も森川先生も空の下の笑顔の樹さんも変わりなく元気です。菓絵さんと優太さんも、空の上の世界で紙飛行機を飛ばしていますよね。これからも笑顔で頑張りますので、空の下の笑顔の駄菓子屋がもっと繁盛するように、お客さんをいっぱい連れてきてくださいね。

「菓絵さんと優太さんの元に届け! それ――――」
 あたしが飛ばした紙飛行機の手紙は、爽やかな秋風に乗って空高く舞い上がっていき、緑の芝生の上にふわりと着地した。二十メートルくらいは飛んだと思う。
「けっこう飛んだね」
「はい。もしかしたら、新記録かもしれません」
 自分で飛ばした紙飛行機の手紙を拾って、空の下の笑顔の樹さんの下に座った。
「いただきます」
 五円チョコを食べながら、オレンジ色の夕焼け空を見つめていたとき、どこからか真っ白い紙飛行機が飛んできた。いったい誰が飛ばしたのだろう。秘密の丘の上には、キャッチボールをして遊んでいる子たちとあたししかいない。不思議に思いながら立ち上がり、すぐ目の前に着地した紙飛行機を拾ってみた。翼の部分に文字が書かれている。

 オレンジ色で、美咲ちゃん。青色で、どうもありがとう。

 菓絵さんと優太さんは、空の上の世界で再会して、一緒になれたのだと思う。

 あなたには、生まれ変わってでも逢いたいと思える大切な人がいますか。

 あたしはまだいません。これから見つけようと思います。





< 43 / 45 >

この作品をシェア

pagetop