初恋は鉄の味
憎しみの的
夕飯に遅れる時は必ず連絡すること、というのがルールだったが、その日みくは約束を破り夜10:00近くに帰宅した。
一瞬の安堵のあと、すぐにやってくる母としての怒り。
「あんた、何時だと思ってるの!?どこに行ってたの!」
みくは、別にまだ補導される時間でもないしいいじゃんと一言。
「なんなの、その口のききかたは」
と、自室へ向かうみくを追った朋子の目に確かに映ったのは、娘の首筋に明らかに残るキスマーク。
「ちょっと…あんたこれ……。まだ17歳の高校生なのよ?身の振り方をきちんとわきまえなさいね。」
純粋に母から娘への叱責のはずだった。
みくはカバンを放り投げて朋子を強く睨みつける。
「なによそれ、私がまだ子どもだって言いたいの?」
「そうよ、あなたはまだ子どもでしょう?」
「これ、聖一さんがつけてくれたのよ。お母さんが愛してやまない聖一さんがね。だから帰りが遅くなったの。文句ある?高校生でも17歳。結婚だってできる歳なのよ、バカにしないで。聖一さん言ってた、朋ちゃんのことは初恋だから忘れられないけど、もう歳だもんなって。40手前でウブ気取ってるお母さんじゃつまらないんじゃない?」
一息に言い放った。
なんですって?と朋子が空気のように吐き出した時にはもう手遅れだった。
それはもう娘を案じる母ではなく、女としての戦いの合図だった。
「聖ちゃんはずっと私のことが好きだったのよ!20年も変わらず!そして私も20年間私もずっと好きだったわ!今さらあんたなんかに邪魔されてたまるもんですか。」
「せっかく両思いだったとしても、20年もウジウジしてなにもできなかったのはお母さんじゃない。私はお母さんが聖一さんに恋したのと同じ17歳で抱いてもらったわ。挙げ句に私たちを捨てるような男と結婚なんかしちゃって、お母さんに残るのは20年っていう時間の長さだけなのよ。」