初恋は鉄の味
女であるということ
その言葉が火種となって、次の瞬間には朋子の手にくだものナイフが握られていた。
愛は時に人を狂気へ導く。
ゆえにみくもひるんだりしなかった。
みくもとっさにキッチンに置きっぱなしの出刃包丁を手にした。
ほんの17歳の娘に、憧れとも言える聖一をまんまと寝取られ憎しみを燃やす朋子。
自分を子ども扱いしておきながら、昔の甘い恋に浸る母を許せなかったみく。
長年積み重ねてきた想いを一瞬で踏みにじられたような屈辱感を抱く朋子。
物心ついた時から求めてやっと得られた安心感を奪おうとする母への憎しみに駆られるみく。
知らずして巡った季節。
ついこの間まで身を寄せるようにして生きた母娘の姿はもはやない。
その質素なアパートの一角は戦場と化したのだ。
許さない許せない、と呟きながら、母娘は切りつけ合い、傷つけ合い、力尽きるまで刺しあった。
真っ赤な血に染まった手はお互いをいたわり支え合うことなく、1人の愛する人の名前を呼びながら、記憶の中のぬくもりに溶けるように我が身を各々抱きしめていた。