初恋は鉄の味
同窓会
9月15日、19:00、シティホテル。
こんなにちゃんとフルメイクをしたのなんて、いつぶりだろう。
裾が膝をくすぐるパーティドレス、おかしくないかな。
普段付けないイヤリングとネックレスが少し重たく感じるくらい。
朋子は軽く髪を手ぐしで整えて、会場の扉を開けた。
「あ、朋子!きたきた!」
久々に見る友人たちが朋子にワイングラスを持って駆け寄ってきてくれる。
こういう行事にとことん参加してこなかった朋子だから、珍しいものを見るような好奇の視線が少し集まる。
でも朋子の視線の先は……。
聖ちゃん……。
「聖一くんさぁ、私たちと同じ38歳には見えないよねぇ。相変わらずの人気者というか、女子共の肌は老化しても、みんなキャラは変わらないもんよ。」
と友人が愉快そうに笑う。
綺麗な奥さんをもらって、有名進学校に通う優秀な息子と音楽が大好きな可愛い盛りの娘がいると聞いていた。
そのせいか、彼から放たれるオーラには学生時代とは違う輝きが増していた。
ただ、朋子の胸はあのがむしゃらで無垢だった学生時代に完全にタイムスリップしていた。
「お、朋ちゃん!久しぶりだなぁ。」
造形とも思える綺麗な笑顔を向けて、聖一は朋子の元に歩み寄る。
朋子は聖一のほうから自分に気づいてくれた、それだけでグラスを落としそうになる動揺を、俯き加減の小さな笑みで隠した。