初恋は鉄の味
それぞれの生きる道
38歳ともなると人生の枝分かれはすごく、起業した者や家業を継いで次期社長が決まっている者、自由が一番だと夢を見続けている者やしっかりとした家庭に収まって平穏にしとやかに暮らしている者まで様々。
早くに両親を亡くし、だから早く結婚し、その上夫まで早く失い、娘の成長だけを生きがいに女手一つで生活してきた朋子にとっては、そのどれもが自分より華々しく感じられた。
そして目の前にいる初恋の相手の笑顔を見ると、自分はなんて哀れなのだろうと思わずにはいられなかった。
聖一のその笑顔は、朋子の知らない場所で知らない時間をかけて作られたのだと、痛感するようだった。
「あ、もうこんな時間じゃねーか。」
クラス1のお調子者が声を上げる。
もう少しで午前12:00を指しそうな時計の針に主婦たちは皆、こぞって魔法が解ける前のシンデレラみたいな顔をした。
楽しい時間なんてあっという間だ。
女性陣は必ず男性陣が送って行くようにというお調子者の合図を、割と全員がまともに、そしてすんなりと受け、聖一は朋子の手を迷わず引いた。
「朋ちゃん、送ってくよ、一緒に帰ろう」
こくりと頷く朋子は、もはや幼い少女だった。