初恋は鉄の味
一夜のぬくもり
灯りを薄暗いオレンジに変えた時には、聖一と朋子は素肌の温度に酔いしれていた。
ここでは一人の男と一人の女、それ以上でも以下でもなかった。
高校生の時のように「好き」だけで全てがなんとかなるような気持ちではないことはわかっていた。
それでも聖一に「綺麗だ」「愛してる」と囁かれる度に、朋子の胸はもう何年も感じることのなかった、いや恐らくもう一生感じることのないと思っていた高揚感に包まれるのだった。
もっと、もっと、深く……。
心も身体も奥の奥で繋がり合いたいと願っていた。
もう、ややこしいしがらみのことは一言も口にしなかった。
正確に言えば、二人で明かす夜には目の前に見えている愛する人以外、全てのものが霞んで見えた。
治まるという言葉を忘れたように高鳴る鼓動と、お互いに乱れた髪に、名残惜しさを感じながらも朝を迎えた二人は無理矢理スイッチを入れ替え、淡々と着替えを済ませた。
「また連絡するよ」
そう聖一が最後に残し、二人はそれぞれの帰るべき場所に戻った。