ハッシュハッシュ・イレイザー

 自分にしてみれば、紫絵里を出し抜いた行動だったと、誰もいない放課後の教室で、窓の外を眺めながら今日一日の事を真理はぼんやりと思い出していた。

 静寂であっても、心の中はノイズがかかったようにざわめいている。

 これからやろうとしていることを考えれば、考えるほど、それは騒ぎ立ってくる。

 抑えていたものはすでに飛び出てしまい、元には戻れない。

 危機感にも似た恐れる震えを抑えようと、真理は自分自身を包むように腕を抱えた。

 教室を見渡しこれまで見てきたモノを頭の中で巡らせる。

 悪口、嫌がらせ、人間の醜い感情──欲望が飛び交う空間。

 虚しくてやるせない、でも抑制できない悲しい性。

 それは、つまらない世界そのもの。

 そして窓の外を見つめ、いつでもここから抜け出せると真理は自分に言い聞かせた。

 自分の心の中を映し出したような空。

 雨は降っていないが、空は灰色の雲に敷きつめられ、ところどころの雲の嵩と重なり合い、部分的に陰が濃くなって黒ずんでいる。
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