ハッシュハッシュ・イレイザー

 月の変わり目、全ての授業が終わった後のホームルーム。

 くじ引きによる席替えが始まった。 

「それじゃ恨みっこなしよ。誰が隣に来ても、皆仲良くしてね。その新しい出会いに、この先の学校生活に変化を与えてくれるかもよ。新しい恋も芽生えるかもよ」

 担任の鮎川華純(あゆかわかすみ)がはきはきとした口調で、このドキドキする瞬間を盛り上げようと茶目っ気たっぷりに振りまいた。

 多感な年頃の生徒たちは、内心期待している事を指摘され、恥ずかしさから「ないない」と粋がって否定する。

 しかし、密かにそれを期待して、あの人の隣になりたいと口には出さずとも願うものは居た。

 この時、クラスの女子達は松永優介の隣を願っていた。

 松永優介は、誰もが認めるかっこよさがあり、一度見れば興味を惹かれるところがあった。

 鮎川華純は教壇の上から優介をちらりと見て、女子の反応を観察していた。

 数人の女子は、さりげなさを装って優介を見つめ、ドキドキと期待している様子に、華純は微笑む。

「皆、恥ずかしがりやね。いいじゃない、素直に期待しても。恋する事なんて恥ずかしくもないのよ。例えそれが叶わなくても、胸にその思いを抱く方が高校生活も楽しいじゃない」

「鮎川先生、それは経験論ですか?」

 お調子者である蒲生久人(がもうひさと)が、口を挟んだ。
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