ハッシュハッシュ・イレイザー
「そうよ。先生も高校生の時は大いに恋したわよ。思いっきり失恋したけどもね。でも今はいい思い出だわ」

 鮎川華純は教室を見渡して、昔を懐かしんだ。

「何、遠い目になってるんだよ」

「いいじゃない別に。蒲生君だって恋にふけてぼーっとするときあるでしょ」

「お、俺はそんなのねぇよ」

「蒲生は恋というより、食い気だろ」

 誰かが茶々を入れ、からかった。

「うるさい! しかし腹は減ってるから、なんか食いたいなぁ……」

 頬杖をつき、夢見るように遠い目の仕草を態とすると、クラス中に笑いが起こった。

 蒲生久人は物怖じせずに、クラスの中でも積極的に発言し活発ではあるが、体が少しふくよかで、見かけは三枚目だった。

 しかし、素直さと愛嬌があるので、馬鹿な事をしてもクラスの中では愛される存在になっていた。

 この時、久人の隣には紫絵里が座っていたが、久人の憎めない行動に紫絵里もクスッと漏らしていた。

 久人は紫絵里に笑われて「へへへ」と照れた笑みを見せた。
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