ハッシュハッシュ・イレイザー
「そんなのどうでもいいじゃない。同じ顔なんだから」

 邪悪とでも取れる口元をただ上げただけの微笑。

 それが優介が見た最後のビジョンだった。

 優介は胸を抑えたまま、糸が切れたあやつり人形のように床に崩れ落ちた。

 全てに圧倒され、恐怖に慄いた紫絵里も悲惨な光景を目にして腰を抜かし床に座り込んだ。

 声なき悲痛の喘ぎで、真理を見るも、そこには邪悪な姿で立ってる殺人鬼にしか見えず、怯えてしまう。

「真理……」

 名前を呼ぶことで恐怖から逃れようとした。

「私は真理じゃないわ。マリアよ」

「えっ?」

 どういう事なのか戦慄の中、紫絵里が困惑している時、窓から黒い翼を持つものが入り込んできた。

「ハイド!」

 マリアは走り寄ってハイドの胸に飛び込むと、ハイドはマリアを抱きしめる。

 二人は思いをぶつけるように、唇を触れ合わせ夢見心地になっていた。

 その時、ハイドの体から黒い羽根が一つ、置き土産のように倒れた優介の体に落ちた。

 優介の体に触れるとすぐにそれは白く光だし、その光に優介は包みこまれ、そして、沢山の羽根が飛び散るように、光ははじけて宙に舞った。

 それを見た紫絵里もまた、意識が次第に遠のき倒れ込んだ。

「時間がないわ。早く行きましょ、ハイド」

「そうだな、マリア」

 ハイドはマリアを抱きかかえ、窓から空へと飛び立とうとした時、瑠依が教室に飛び込んできた。

 倒れている優介と紫絵里、窓辺から飛び立ったハイドとマリアを見て驚きのあまり息を詰まらせていた。


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