ハッシュハッシュ・イレイザー
 それでもまだ二人には小さな希望が残っていた。

 その希望は今も残っているかは、まだこの時点でははっきりとわからない。

 私はそれを確かめにこれから紫絵里に会いに行かなければならない。

 紫絵里も気の毒だった。

 はっきりいって、マリアとハイドに利用されたにしか過ぎない。

 裏切られたと、嫉妬に狂い我を忘れた上、不本意ながらも怒りが抑えきれずに優介を傷つけようとしてしまった。

 そして優介は、紫絵里の前で、真理によって殺されてしまった。

 失恋したことで、妬み、憎しみ、恨みと怒りに支配され凶暴になってしまった事も、好きだった人が親友に殺されたのを目撃した事も、度肝を抜かれるほどショックは計り知れない事だろう。

 その償いとして、私は全てを紫絵里に説明しなければならない。

 それが語り手である私のもう一つの仕事。

 ずっと見てきたけど、紫絵里もなかなかいい根性をしていた。

 紫絵里ならきっと最後まで聞いてくれるかもしれない。

 頼りない風が私の毛先を軽くなびかせた。

 真黒い夜空に小さく浮かんだ月を見上げれば、そこが抜け穴のように見えた。

 それは閉じるのか開かれるのか。

 私は輝く欠けた月を見つめ、少しこの出来事を見つめ直した。
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