ハッシュハッシュ・イレイザー
 紫絵里が自分の机を動かして、優介の隣にくっつけた時、優介はすぐさま挨拶をした。

「おっ、瀬良か。よろしくな」
「えっ、ああ、よ、よろしく」

 挨拶されると思わなかっただけに、不意に声を掛けられ紫絵里は戸惑った。

 それよりも、自分の名前を知られていたことにもっと驚いた。

 メガネの奥から覗く瞳の視線が定まらないまま、慌てて受け答えをしていた。

 紫絵里はこの時まで、まだ優介の事に興味がなかったのかもしれない。

 女の子達が憧れていることは知っていても、自分には関係なく無感情だったに違いない。

 しかし、昔から友達のような感覚で自分の名前を呼ばれ、この時、心の中の何かがはじけ飛んだ。

 その瞬間から、他の女の子達が同じ道を辿ってきたように、紫絵里もまたそのパターンに陥るのに時間はかからなかった。
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