ハッシュハッシュ・イレイザー
「紫絵里、あなたの答えはわかったわ。だから、私が突然見えなくなったのね」

「待って、まだ行かないで」

「私はまだどこにも行ってないわ。さっきから同じ場所に居る。だけどあなたがその判断をしたから、この物語はそこで終わってしまったの。そしてマリアとハイドの恋物語は……」

 私はこの後をしっかりと言ったはずなのに、紫絵里の耳には私の声が届かなかった。

「ちょっと、何? 聞こえないわ」

 紫絵里との会話はこれで終わってしまった。

 こうなると私がここに居ても仕方がない。

 だから、紫絵里の傍にあった白いバラの花を一本何も言わずにもらった。

 一本だけ宙を浮くように部屋の中を漂う。

 何も知らない人が見れば、摩訶不思議に思う事だろう。

 だが、紫絵里は私が抜き取ったと思って見ているようだった。

「これで本当にお別れなのね。なんだか寂しい」

 紫絵里の瞳に涙が溢れてくる。

 私はその涙に見送られながら、白いバラと共にそこから姿を消した。

 宙に浮いていたバラが消えた事で、私がどこかに行ってしまったと紫絵里にもわかったはずである。

 紫絵里は、マリアとハイドを許し、真理を大切な友達だと認めた。

 鮎川華純がかつて同じ答えを出したことにも気が付いていた。

 そうやってまたマリアとハイドの恋物語はこの先も続いていくことになった。
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