ハッシュハッシュ・イレイザー
 次の準備のために、またマリアは引きこもり、真理は新しい恋を探し、そしてハイドはそのお相手にふさわしい死にかけた人を探して、末期を迎える魂を少しだけ早めに戴きにあがる。

 もう何度と繰り返してきたことだった。

 そして、真実を告げた時、誰もが二人の恋を認めて咎めるものはいなかった。

 誰にも迷惑のかからない恋。

 ただ、一つ終わるごとに、時計の針を戻せないのと同じ様に、そこで幕を閉じてしまう。

 何度も何度も思いを描いて、一つ終わるごとにそれを涙ながらに消し去っていく。

 だけど、何一つ忘れない、私が一つ一つ物語を綴る限り、それはずっと残っていくから。

 後に、真理に会った誰もが、放課後の静かな教室で佇み、黒板にメッセージを書き込む。

 真理を思うと、なぜだかそのような行為をしたくなるらしい。

 まだ教室のどこかに、真理がいると思えてならなかったのだろう。

 紫絵里もまたそうだった。

 真理の事を思い出し、西日が差しこむ光を受けて、静かな教室でチョークを走らせた。

 『あなたのこと忘れない』

 自分の思いが真理に伝われば、紫絵里はそれで満足だった。
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