ハッシュハッシュ・イレイザー
「久しぶりね、ハイド」

 私が無表情に見つめ返せば、ハイドの目顔は口の片隅を少し上げ、嘲笑うような虚しさに変わった。

 暫く黙っていたが、ハイドは諦めて、私に屈服する。

「はいはい、わかってますよ。さて、俺は君をなんて呼べばいい?」

「ナナでいいわ」

「ナナ?」

「そうよ、名無しのナナよ」

「そんな簡単に決めていいのか? 悲しくないのか?」

「悲しい訳ないじゃない。それともあなたが悲しいの?」

「そうだな。俺は君を見れば常に悲しくなる」

「でも、私がでてくれば、それは期待に変わる……」

「さあ、どうかな」

「まあ、ゆっくりと見てればいいんじゃないの。また真理が恋をしたわ。しかも、親友の好きな人をね」

「そっか。真理が恋をね」

「あら、嬉しくないの? それがどういう意味か分かってるんでしょ」

「わかってるが、あまりいい気はしないのも事実だ」

「辛いわね、ハイドも。でも、真理を応援してやれば? そうすればマリアは帰ってくるかも」

「マリアか。真理の姉だったよな、確か?」

「さあ、姉か妹かは私にはわからない。どっちでも同じよ。だって顔がそっくりなんだから。双子…… だからね」

「双子って、お前が言ってもね…… だけど、顔は同じでも、性格は全く違う」

 ハイドが、月明かりの儚さと、かわらないくらいの溜息を、細く吐いた。
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