ハッシュハッシュ・イレイザー
 休み時間、真理が席を立てば、紫絵里は優介と何かを話していて、近づきにくい雰囲気が伴う。

 常に紫絵里と一緒に過ごしている休み時間なのに、いつもと何かが違っている。

 どうしていいのかわからない真理は、少し躊躇しながらも、紫絵里の席へと足を向けた。

 紫絵里の笑い声が間近で聞こえた時、真理は邪魔をすべきではないと遠慮して、踵を返そうとしたが、それに気づいた優介が咄嗟に声を掛けてきた。

「なあ、お前はどう思う? やっぱりこれおかしいよな」

 教科書に載っていた写真を指差し、優介は真理に笑顔を見せた。

 いきなり話を振られて、真理は放心状態になって突っ立っていると、振り返った紫絵里が我に返り、さっきまでの陽気な笑いがすっと消えた。

 いいところを邪魔された不満にも思え、真理はこの上なくおたおたしてしまった。

「あの、その、私、何のことか……」

「もう、松永君、純情な真理を巻き込まないでよ。彼女困ってるじゃない」

 真理を庇うようでいて、そうじゃない本音がそこに紛れているようにも思え、いつもの紫絵里じゃないと、真理はなぜか思った。

「別にいいじゃないか。瀬良の友達なんだから」

 優介の言葉で紫絵里ははっとして、恥を感じたように気まずく俯いた。

 それだけで、真理には紫絵里の乙女心が読めた。

 友達だけど、優介が絡めばまたそれは違う間柄になってしまう。

 紫絵里は優介を独り占めしたいのだ。

 幸運に恵まれ、クラスの人気者の優介の隣の席となった紫絵里の心に異変が起こるのも無理なかった。
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