ハッシュハッシュ・イレイザー
「月の光を固めて作ったのね。まるで道端で子供たちが落書きをして遊ぶチョークの石みたい」

「チョークか。えらく安っぽいものの例えに聞こえる。まあいい。好きに噂を流せば、価値のあるものになるだろう。使い方は君に任せるよ。その魔力の力は知ってるだろ?」

「ええ、そうね、夢が叶えられるってとこかしら」

「せいぜい、好きにやってくれ、ナナ」

「わかったわ」

 ハイドが宙に飛び立とうとしたその瞬間、大きく黒い羽根が力強くひらかれた。

 大地を蹴って、軽々と空を舞うハイドは月を背景にシルエットとなる。

「ナナ、俺はお前もやっぱり好きだぜ」

 空の上から叫んだハイドの声に、私は笑わずにはいられない。

「浮気者……」

 私はこれから始まる歪んでしまった恋の行方と、その紡がれる愛の物語に、少しだけ身震いする。

 青い月夜を眺め、空を舞うハイドの姿を見えなくなるまで目で追っていた。
< 4 / 185 >

この作品をシェア

pagetop