ハッシュハッシュ・イレイザー
 自分を気遣っていることは真理にも充分承知だったが、気がかりなことを黙っている訳にはいかなかった。

「それなら、なぜ、月の光の石が他の人の手に渡ったの? もしかして、マリアが私のふりをして紫絵里に渡したの?」

「そうね、私たちはそっくりですもの。私があなたのフリをすればそれは可能ね。でも私じゃないわ。私は紫絵里には会ってない。学校に行ってないもの」

「嘘! マリアは時々、私に内緒で外に出ているわ」

「どうして、そんなに断言できるの?」

「クラスの松永君が病院で私とすれ違ったって言ってた。それって、マリアでしょ。どうして勝手にそんな事するの。とても危険なことじゃない」

「ごめん、真理」

「やっぱり、嘘ついてたのね」

「ううん、嘘はついてるつもりなんてないわ。ただ、言わなかっただけ。ちょっとした気まぐれだったの。だから、病院にはふらりと行ってしまったことは認める。ごめん、真理」

「私に謝る事なんてないわ。私はマリアが心配なだけ。その体で出歩いたら、もしもの事があったらどうするの?」

「うん、わかってる。でもどうしても抑えきれなかったの。あそこに行けば、あの人に会えるんじゃないかって、ついふらふらと出歩いてしまった」

 弱々しく微笑むマリアが幼気(いたいけ)で真理はいたたまれなくなると、自然とマリアを抱きしめていた。
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