ハッシュハッシュ・イレイザー
 描き終われば、どこか満足気味に口元が上向き、真理は微笑した。

 それを空虚に見つめる。

 ブロークンハート──紫絵里が描いたハートのマークは引き裂かれてジグザグ線が書き加えられていた。
 
 ヒビが入ったそのハートは、温かさを失い、悲哀なマークと変貌した。

 これもまた、強いメッセージを表し、もの悲しげに人の目に映る。

 それが本音だとしても、紫絵里の気持ちに水を差したかっただけだろうか。

 それとも真理自身の壊れた心なのだろうか。

 闇の深さに翻弄され、真理は暫く佇んでいた。

 廊下から、人が近づいていくる気配がしたとき、はっとして誰にも見られてはいけないと急いで黒板消しを手に取った。

 次第に耳に入る足音、そして話し声がすぐそこに来ていた。

 なぜだか、恐れるようにドキドキして、叩きつけるような力強さで擦り取る。

 それは、すぐさま白い汚れを残して、壊れたハートを消し去った。

 真理は何事もなかったように、一番端の窓際に立ち、目立たぬように外を見つめた。

 この季節にふさわしい鬱陶しさを暫くの期間もたらしそうに、雨はやむ気配なく振り続けている。

 空から水が流れるその様を眺め、自分がこれから流す涙のように、真理はもっと降ればいいと強く願う。
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