彼が残してくれた宝物

随分体も楽になり、ベットの上に起き上がれたのは、日曜日の夜だった。

お腹が空いてるだろうと言って、樋口さんは、私の為にお粥を作ってくれた。

「すいません… ご迷惑をお掛けして…。」

彼は良いから早く食べろと、お粥を私の口元へレンゲで運んでくれる。私は自分で食べれるとそれを拒むと、彼は、「仕方ないな、これも口移しか?」と呟いた。

はっ? いま何と?
口移し??

彼は、楽しそうにレンゲのお粥を自分の口へ運ぼうとしたので、私は慌ててその手を掴んだ。すると彼は笑い、ほらっと私の口へレンゲを向けた。

ほんのり塩味のするシンプルなお粥。心も体も温まる。「美味しい」と、言う私の言葉に、微笑む樋口さん。何度か口に運んでもらったお粥も、半分程食べたところで、「もう、お腹いっぱい」と言うと、彼は、じゃ薬を飲んで寝ろと言う。

「でも…これ以上、迷惑を掛けては…」

私は帰ると言うと、彼から驚く言葉が告げられた。

「それは無理だと思うよ? 君の服はクリーニングに出してるし、今、君が着てるのは、俺のシャツと、下着はパンツだけ、その格好ではいくら何でも帰れないだろ?」

私は思わず胸に手を当てた。

あっブラがない!…

「コンビニにも、流石にブラジャーまで売ってなくてね?」

もしかして下着も…
嘘でしょう!?
私この人に全を見られた…ってこと?

熱だけじゃなく、恥ずかしさで顔が熱い。

「ブラジャーもどう洗って良いか分からないから、洋服と一緒にクリーニングに出しといたから?」

嘘っ…

下着を出されたクリーニング店の人は、どう思っただろう。
絶対そのクリーニング店には、恥ずかしくて行けない。

樋口さんは、「大人しく寝るんだな?」と、言って、部屋を出て行った。





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