彼が残してくれた宝物
私はどうだろう…?
時の針はどんな事をしても、ゆっくり進めることは出来ない。勿論、早める事も出来ない。
誰にとっても、1日は24時間なのだ。だから、こそ時間を有意義に使いたいと思う。
だが、そう思っていても、なかなかそれが出来ないのが現実だ。 仕事に追われ、クタクタになって家路につき、ベットに潜り込む。朝は疲れているからと、ぎりぎりまで眠り、そして慌ただしく支度をして、仕事に出掛ける。
私は敢えて、そうしていたかもしれない。辛い事を思い出す暇を作らないように。
「じゃ、俺仕事に出掛けるけど、コスモスは食べたら、薬を飲んで大人しく寝てる事!」
「コスモスじゃ無くて、秋、桜です!」と怒ってみても、彼には効きめは無いようで、「そうだった?」と笑って返ってくる。
「あっ仕事先に連絡入れたほうがいいぞ? まだ熱も下がりきっていないからな? 無理しないほうが良い。」
「そうします。 どうせ服を人質に取られていて、ここを出ていけませんからね?」
「人質か? 良いね? いっそうのこと、ずっと人質にとっとこうかな?」
樋口さんは笑い、「いってきます。」と私の頬にキスをした。私は突然の事に驚き、キスされた頬に手を当てる。
「なっ何するんですか!?」
「頬にキスしたくらいで、照れるなよ? なんどもキスしただろ?」
「キスなんてしてません!」
「俺はしたよ? なんども、口移しで水を飲ませたからな?」
私は、頬に当てていた手を口へと移し、掌で口を覆う。
嘘っ…
口移しって…
「それに君の綺麗な体にも、キスを落として、それから…」
体にも…
私が熱で意識を失って抵抗出来ない事を良い事に!?
この男は私に何を…
彼はそれからと言ってニヤッと笑った。
私は右手を上げ、彼の頬へ振り下ろそうとしたが、その腕を、彼に掴まれてしまった。
「おっと今から仕事に行くのに、頬を赤く腫らして貰っては困る。」
悔しい!!
私は唇を噛み彼を睨みつける。
「冗談だよ? 弱ってる奴を襲うほど、飢えてないよ! まぁ口移しで、水を飲ませたのは本当だけどね?」
手を離してと言う私に、彼は殴るのは無しだからな? と、言って離してくれた。
「仕方ないだろ? 全然飲もうとしてくれなかったんだから?」