彼が残してくれた宝物

樋口さんからは、体調が悪いのに洗濯や掃除をするとは、何を考えているんだと、こんこんとお小言を貰った。

熱を測ったら37.9度

「38度無いから平気だって!」

「馬鹿か!? 38度と同じだろ!?」

樋口さんのお小言が止まらない。

もー煩いなぁ!
この程度なら平気だし、このくらいの熱なら、仕事だって行くけどなぁ。

いつ迄も続くお説教。

まだ続くのかな?… って言うか、体調が悪い相手にお説教っておかしくない?

「あの…お腹空いたんですけど?」

樋口さんは、私の言葉に我に返ったらしく、「すまん。」と、謝った。

「さっさと、飯食って早く寝た方がいい。」
と、言って、買って来てくれた、お弁当を出してくれた。

「弁当で悪いな?」

「とんでもないです。 お世話かけてすいません…」

「悪いと思うなら、早く治せ!」

「ですよね? もし、彼女さんが誤解したらまずいですものね? バレない内に明日にでも、出て行きますから?」

私の服をクリーニング店から、受け取って来てくれたから、明日の朝にでも帰れる。

「彼女なんて居ない。」

「あっ! 単身赴任でした? お子さんは?」

「俺は独身だ! そんな事よりさっさと食って寝ろ!」

「へー独身で彼女無し? それだけのイケメンで料理も掃除も出来るのに? 何か欠陥が有るんですか? あっ性格が悪いんだ?」

「お前な!? それ、褒めてるのか貶してるのかどっちだ?」

樋口さんに睨まれ、私は首をすくめる。

一応褒めてますよ? 一応ね!

「とにかく誰にも遠慮する必要ないんだから、熱が下がってから、出て行けば良い。」

いや、そんな訳にはいかないでしょ?
あなたと私はなんの関係も無く、あのバーに偶然居合わせたお客さん。 ってだけ?

随分お世話になってしまったが、もうこれ以上お世話になる事は出来ないし、私だって、いつまでも知らない男の人の部屋に、居るのは流石にどうかと思う。




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