彼が残してくれた宝物

「あれ? 樋口さんお腹空いてないんですか?」

樋口さんは、お弁当を開けたものの、ほとんど食べて居ない。

「俺の事は良いから、さっさと食って寝ろ!」

樋口さんは強い口調で言い、顔を歪め、右手で米神を押さえた。

え?
ひょっとして?…

私は椅子から立ち、斜向かいに座る樋口さんの額に手を向けた。しかし、樋口さんは拒み私の手首を掴んだ。

…熱い!
樋口さんの手が熱い!

さっきは気付かなかったけど、熱のある私が熱いと思うのだから、樋口さんは相当熱がある。私のがうつった?

「樋口さん! 具合悪いんですよね?」

「人の心配しなくていいから、早く寝ろ!」

「その言葉、そのままお返しします!」

「俺は、男だから大丈夫だ!」と、彼は訳の分からない事を言う。

男だろと、女だろうと、高熱を出せば体は辛い。
朝の、コーヒーにも手を抜かない樋口さんなのに…
どうして…さっき違和感があったのに…
私、気付かなかったんだろう。
だから、今夜はお弁当だったんだ…?

具合い悪いのに、私の食事の心配をして、私の面倒なんてみなかったら具合が悪くなる事もなかった筈。

「早く休んで下さい!」

あっ横になる前に、着替えをさせなくては?

「クローゼット勝手に開けますよ?」と、樋口さんに声をかけ、クローゼットを開けた。

さすが!

クローゼットの中も綺麗に整頓されていた。その中から、適当に樋口さんの着替えを出し、着替えてもらった。

薬を飲んだほうが良いと言っても、樋口さんは大丈夫だと言って、薬を飲もうとしない。

「あれー? 薬飲めないんですか? お子様ですね?」

「うるさい!」

もう!
大の大人が薬が嫌いとか、言わないでよ?

あっもしかしたら、アレルギーがあるのかもしれない。それなら無理に飲ませると大変な事になる。

「わかりました! 無理に飲まなくて良いですから、早く横になってください。」

私は薬を飲ませるのを諦め、樋口さんをベットに寝かせ、私はキッチンへ行き、冷凍庫を開ける。

高熱を出した時は、動脈部位を冷やした方が良いと、聞いたことがある。
ケーキなどに付けられる保冷剤が有ればと思ったが、

「やっぱり無いか…」

仕方なく、ビニール袋を探し、氷を入れ簡易氷嚢を作り、彼の首横と両脇の下に氷の入った袋を置く。

「これで熱が下がれば良いけど…」





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