彼が残してくれた宝物
「水分はちゃんと取って下さいね?」
ベット横のサイドテーブルに、ミネラルウォーターを置き、私は部屋を出ようとした。
すると、
「待て、どこに行く?」と、弱々しい声が掛かった。
思いがけない高熱に、樋口さんも不安になったのだろう。
私は、彼の元へ戻り、
「大丈夫ですよ? どこにも行きません。 リビングに居ますから、何かあったら呼んで下さい?」
そう言って、樋口さんを安心させる様に、頭を撫で微笑んで見せる。
しかし、私が思っていた事と違ったようだ。
樋口さんは私の腕を掴み、俺がリビングで寝る。と、言って体を起こそうとした。
何言ってるの!?
私は慌てて彼の体を抑えた。
「ダメです! こんなに熱があるのに、ここで寝て下さい!」
「お前も熱あるじゃないか!? 俺は大丈夫だから、お前がここで寝ろ!」
樋口さんは、なおも起き上がろうとする。
何度も、私は大丈夫だと言っても、彼は聞き入れようとはしない。
もう!
頑固なんだから!
「分かりました。 私もここで一緒に寝ます。 だから、樋口さんも心配しないで横になって下さい。」
樋口さんは少し驚いていたが、互いが譲らないなら、仕方が無いと思ったようで、諦めて横になってくれた。
そしてセミダブルのベットに、樋口さんと並ぶ様に私も横になった。
いつぶりだろう…?
人の温もりを感じながら寝るのは…
私も次第に瞼が重くなり、いつの間にか眠りについていた。
どのくらい寝てしまったのか、私はうめき声に目を覚ました。
しまった!
少しだけのつもりが、ぐっすり寝てしまった。
隣に眠る樋口さんの息が荒い。首や脇の下に置いた氷はとうに溶けてしまっている。慌てて新しい物と取り替え、額に氷水で冷やしたタオルを置く。
どうしよう…
薬を飲ませずに、このまま寝かせているだけで良いのだろうか…