彼が残してくれた宝物

私の訴えは聞き入れられず、桜井さんは何処かに電話をしていた。

こんな事していて、もし、手遅れにでもなったら…

樋口さんの側へ行くと、樋口さんの呼吸はさっきより荒い気がする。苦しそうに呼吸する彼を見ていると涙が溢れてくる。

また、私の周りの人が居亡くなるのは嫌だ。

「樋口さん、病院に行きましょう?」

しかし、樋口さんは首を振る。

どうして?
そんなに苦しいのに…

「大…丈夫…俺は…死なない…から…」

樋口さんは絞りだす様に答え、私の頬に手を添え涙を拭ってくれる。

私はその手を握り祈った。

お願い。
死なないで…

お願い。
誰か彼を助けて!

お願い。
もう…私の側から、誰も居亡くならないで…

「秋さん?」

私の肩に優しく置かれた手、顔を向ければ桜井さんが、大丈夫と言う様に頷いた。
そして、桜井さんの後ろには、白衣姿の中年男性と、大きな鞄を持った女性が居た。

私は白衣の男性に縋り懇願する。

「先生、樋口さんを助けて下さい! お願いします!」

すると桜井さんは、先生に縋る私の肩を持ち「先生にお任せしましょう?」と、言って私をリビングへと連れて行く。

桜井さんは私をソファーに座らせ、着ていた上着を脱ぎ、私の背に掛け、ソファーに置いてあった、毛布を膝に掛けてくれた。そして桜井さんはキッチンへと向かった。

暫くするとソファーに座る私の前に「きっと、大丈夫ですよ?」と、優しい声と共に、ティーカップが置かれた。

波打つシェイプに、エレガントなフラワーリースをデザインされたティーカップ。
カップの中では綺麗なクリームブラウンが揺れる。

「ミルクティーはお嫌いですか?」

優しく向けられた声に首を振り、頂きますとカップへ手を伸ばす。
口へ運べば、ほのかに香る甘い香りと

これは…





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