彼が残してくれた宝物
「ショウガ?」
「秋さんも具合が悪いのでは?」
え?
「先程、あなたの体が少し熱いようでしたので、もしやと思い、ジンジャーミルクティーに致しました。少し蜂蜜を入れてありますので、飲みやすいかと?」
なんて心遣いなんだろう。初対面の私にまで、この喋り方や立ち振る舞い。
この人は何者だろう?
樋口さんとはどんな関係なんだろう?
「有難うございます。」
私は再びカップに口をつける。
生姜の辛味を感じるが、ミルクと蜂蜜がそれを優しく包んでいる。絶妙なバランスでとても美味しい。
「美味しい…」
「お口に合いましたでしょうか?」と、桜井さんは微笑んだ。
「はい、とても美味しかったです。」
桜井さんは、良かったです。と、言って、私の向かいに座った。
「ところで、あなたにお聞きしたいことが有るのですが?」
私は、何かと首を傾げると、桜井さんは真っ直ぐ私を見て尋ねた。
「樋口とは、どの様な…」
桜井さんは一度、ゴホンと咳払いをして、改めて聞いた。
「失礼を承知でお聞き致します。樋口とは、いつから男女のご関係でしょうか?」
「えっ?」
あっこの格好がいけなかったのだろう。私は樋口さんのシャツを着ている。狼狽えていたとはいえ、着替えておくべきだった。
私は慌てて首を振る。
そして、私がここに居る理由を、桜井さんに話した。
「そうでしたか? それは大変失礼なことを申しました。」
桜井さんは立ち上がると、深々と頭を下げてくれた。
それを見て私も慌てて立ち上がると、私の膝にかけてあった毛布と、桜井さんの上着が床に落ちてしまった。
「あっごめんなさい。」
慌てて上着を拾い、桜井さんに手渡し、私は着替えてきますと言って、ダイニングの椅子に掛けてあった洋服を持って、洗面所へ向かった。