彼が残してくれた宝物

点滴のお陰で、樋口さんの熱は、少し下がっていた。午後から再び来てくれていた医師は、また明日来ると言って看護師と、一緒に帰って行った。
医師達を見送り、リビングに戻ると、桜井さんは何処かに電話をしていた。

「……分かりました。 直ぐに戻ります。」

桜井さんは電話を切ると、大きな溜息を付き、困ったなぁと、呟いた。

「あの… どうかされましたか?」

「ええ… これから仕事に戻らないといけないのですが、あの状態の樋口をひとりにするのは… 臨時で家政婦を頼もうと思うのですが、急で、この時間からと言うのは難しいですし、何より樋口は、知らない人間を家に入れるのは、嫌いますので…」

そうなんだ…
じゃ、私を家に連れてくるの嫌だっただろうな…
だから、私が掃除した時も、あんなに怒ったのかな?

「困りましたね?」

このまま樋口さんをひとりにして、もし、また熱が上がったりしたら…
食事だって困るだろうし…

「あの… 秋さんは無理でしょうか?」

は?

「いえ、樋口があなたをここに入れたと言う事は、少なくとも、あなたには心を許しているのかと?」

心を許しているって言われても、先週初めて会っただけだし、樋口さんが、ここへ私を連れて来てくれたのも、具合いの悪い私を放っとけなくて、仕方なくだろうし…

「やはり無理ですよね… 申し訳有りません。 勝手なことを言いました。 お忘れ下さい。」

うん…
でも、私が断ったら他に当てはあるのかな?





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