彼が残してくれた宝物
「しかし、ほんと凄いな…」
樋口さんの着替えを出そうとクローゼットを開けると、高級ブランドのスーツが並んでいる。昨夜は気が付かなかったが、樋口さんの時計も鞄も、持ち物全て高級品だった。
樋口さんって何者だろ?
仕事は何してる人なんだろ?
あの桜井さんも
樋口さんとどんな関係なんだろう?
どう見ても樋口さんより、桜井さんの方が随分歳上。でも、桜井さんの樋口さんへの接し方は、樋口さんの方が立場は上の様に思える。
まぁどんな関係かは分からないけど、桜井さんが来てくれてホント良かった。
翌日、桜井さんは食材を買って持って来てくれた。午前中は桜井さんが、樋口さんを診ててくれると言うので、私は一度着替えをとりに帰った。
私が樋口さん宅へ戻ってきた時は、既に医師が来た後らしく、樋口さんは再び点滴をしていた。
「大丈夫なんでしょうか? やっぱり病院に入院したほうが良いのでは?」
「そうですね… 本当はその方が良いのですが…」
殆ど意識の無い樋口さん。無理にでも入院させる事は出来るはずなのに、桜井さんはそれをしようとしない。
どうして…
樋口さんは、5日間何も口にすることなく、床についていた。
樋口さんの額に手を当てると、樋口さんが目を開けた。
「樋口さん?」
良かった…
「君の手、冷たくて気持ちいい…」と樋口さんは微笑んだ。
「なにか欲しいものありますか?」
樋口さんは首を振る。
「少しでも何か口にしないと…」
「桜井いる?」
「桜井さんはお仕事で、海外に行かれてますよ?
明日には帰って来られるそうです。」
「……そんなに寝てたか…」
「あっ桜井さんが、スープを作って置いてってくれてますよ? 少しでも飲めますか?」
「…じゃ、少しだけ。」
桜井さんは『昔から食欲が無い時でも、これだけは口にしてくれるです。』と言ってオニオンスープを作って、冷凍して置いてくれたのだ。
キッチンに行き、桜井さんが作って置いてくれたスープを温めて寝室へ持っていく。
「起きれますか?」
樋口さんは首を少し振って無理だと言う。
「もぅ何日も食べてないのに… 少しでも良いから食べれませんか?」
「じゃ、口移しで飲ませてよ?」と、言って、樋口さんは、気無しか頬を少し緩めた。
「むっ無理です!」