彼が残してくれた宝物
翌日、夜20時を回った頃、桜井さんはお見えになった。
「お帰りなさい。樋口さんは、寝室にいらっしゃいます。」
「まだ、熱は下がらないのでしょうか?」
心配する桜井さんへ首を振る。
「昨夜から、熱は上がってませんが、体はまだ本調子じゃないと思います。」
「そうですか?」
心配する桜井さんは、樋口さんの寝室へ入って行った。
暫くして、寝室から出て来た桜井さんへ、私はお茶を出した。
「秋さんには、本当にお世話になりました。なんとお礼を言ったら良いか…。」
「いえ、元々は、私が樋口さんへお世話になった事が原因ですから?」
「それでも、秋さんにはお仕事を休ませてしまいました。」
「いえ、丁度良かったんです。契約が終わった所で、少し休もうと思ってましたから?」
「契約とは… 失礼ですが、秋さんのお仕事、お聞きしても宜しいですか?」
「はい。基本事務職なんですが契約で働いてます。」
「それでは尚のこと、お休みした間の御礼をさせて下さい。」
桜井さんはそう言うと、ジャケットの内ポケットから、金額の書かれてない小切手をだした。
「失礼だとは思いますが、こちらをお受け取り下さい。」
小切手には既に署名と判子が押されており、まさしく、ドラマなどでみる。「好きな額を書きなさい。」っという事だろう。
「お気持ちだけ、有り難く頂きます。」
「しかし…」
「私、派遣会社へ登録して働いてるんですが、先週丁度働いていた所の契約が終わった所だったんです。
いつも、次を決めるまで暫く休むんです。ですから、どうぞお気になさらないで下さい。」
私は、荷物を持ち帰ろうとすると、桜井さんは自宅まで送ってくれると言ってくれた。
「いえ、私は大丈夫ですから、樋口さんについていてあげてください。」
「それは、いけません。 こんな時間にひとりで帰す事は出来ません。 少し待っていて下さい。樋口に声かけて来ますから?」
結局、断りきれず、自宅近くのコンビニまで送って貰った。
「本当にここで宜しいのですか?」
「はい。少し買い物して帰りたいので?」
「それでは、何か困った事がありましたら、お力になりますのでいつでもご連絡下さい。」
桜井さんはそう言うと、名刺を渡してくれた。