彼が残してくれた宝物
コンビニで、買い物をしていると、スマホが着信を知らせた。
「もしもし。」
『あっやっと捕まった! もう、秋さん! 何度電話したと思ってるんですか!?』
電話は、派遣会社の都筑さんだった。
「ごめんなさい。」
『仕事一杯来てますよ?』
「今度は何処ですか?」
『M社の総務です。』
「M社って前に行ったから、ダメ!」
『そんなこと言わないで下さいよ? 秋さんを是非にって言って来てるんですから?』
「都筑さんさ? 私、同じ所(会社)NGだって知ってるよね?」
『知ってますよ? 知ってますけど… お願いしますよ? 僕を助けると思って?』
「じゃ、良いわ!」
『ホントですか!?』
「うん。 社長に辞めるって言っといて? 他の会社に登録する。」と、言って私は電話を切った。
しかし、また直ぐに、都筑さんから電話があった。
『もうー! 切らないで下さいよ! 秋さんに辞められたら、僕、会社クビになるじゃないですか?』
泣き落としを始めた都筑さんを笑い、さっきポケットに入れた桜井さんの名刺を、コンビニのゴミ箱へ入れた。
樋口さんの持ち物や、桜井さんから提示された小切手、どう見ても、私と住む世界の違う人達。
二度と彼等に会う事は無いだろう。
『秋さん、聞いてますか!?』
「うん、聞いてるよ? で、仕事は?」
『来週から、N商事で、三ヶ月。』
「営業じゃ無いよね?」
『営業は、ダメなんですねよ?』
「ダメ!」
営業は、今まで行った会社(派遣先)の人達と、何処でどう関わるか分からない。
『はぁ… 秋さんなら、絶対営業でもトップ取れるのに?』
「じゃ、詳細はメールして?」
電話を切ろうとした時、私の後を付けるような足音がした。
私… つけられてない?
「あっねぇ都筑君! 今さ、家の近くのコンビニなんだけど、直ぐに迎えに来てくんない? 五分! いや、愛してるなら、三分!! で、迎えに来て!」と言いながら、足早に自宅へ帰った。
『はぁ? 秋さん、なに言ってるんですか? 大丈夫ですか?』
「ごめん、何でもない。 家着いたから、電話切るね?』
私は家に入ると、直ぐにドアの鍵とチェーンをした。
そして、心配してるであろう都筑君にメールした。