彼が残してくれた宝物

月曜日、私の通常の日々が戻ってきた。

N商事では、企画部の出産休暇中の山下さんと言う人の代わりに、企画の補佐と事務を任された。

「秋さんって飲み込み早いし、センスあるから助かるよ?」

「有難うございます。」

「良かったら、営業にも一緒に行ってくれないかな?」

「申し訳ありません。 内勤での契約になってますから? 営業は出れない事になってます」

「そっかー残念だな… 秋さんなら、上手く話しも出来るから、営業もいけると思ったんだけど? じゃ、今度、仕事終わりに皆んなで飲みに行かない? 親睦を深めるために?」

「有難うございます。 でも、保育園で子供達が…。」

子供達と言う言葉に皆んなが驚く。

「秋さん結婚してたの?」

「…いえ、してません…」

「じゃ、シングルマザー? 大変だね?」

「いえ、そんなに大変じゃないですよ? でも、今度お付き合いする人は、まず子供達を受け入れてくれる事が前提ですね?」

私は子供なんて居ないし、居るなんて一言も、言ってない。
家の近くに保育園があって、園児が「おねぇさん、おはよう!」「おねぇさん、お帰り!」って声掛けてくれる。
ただ、私はそれを言っただけ。
それを、勝手に誤解しただけだ。

でも、男の人の誘いを断るには、この断り方が一番早い。 下心のある人は二度と誘ってこないし、そうで無い人も、子供が待ってるなら仕方ないと諦めてくれる。

ただ、シングルマザーと勘違いして、色々詮索はされるが、それは聞き流してしまえば良い。

私は仕事しに来てるのだ。余計な事は聞かない、言わない。

「では、お先に失礼します。」

勘違いのお陰で、余計な残業も押し付けられず、定時に退社出来るのも良いところではある。

「今日はスーパーに寄って帰ろう!」

買い物袋を抱えて帰って来ると、アパートの前に見知らぬ高級車が停まっていた。

こんな入り口に停めて、邪魔だなぁ。

アパートの階段を上がると、私の部屋の前に、スーツ姿の男(ひと)がいた。

だれ…?




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