彼が残してくれた宝物
「コスモス、早くおいで?」
樋口さんに呼ばれ中へ入ると、和服姿で上品な女性が迎えてくれた。
「まぁ、樋口様、いらっしゃいませ。」
「女将お久ぶり。元気してた?」
「はい。お久しぶりでごさいます。 樋口様もお変わりありませんか?」
「この通り、元気だよ?」
「それは、良うございました。」
「親父さんは?」
「すぐ、呼んで参りますので、こちらへどうぞ?」
女将さんに呼ばれ、奥から、少し厳つい中年男性が出てきた。
この人がこのお店の大将かな?
「いらっしゃいませ。樋口様お久しぶりです。」
大将は、にっこり笑って頭を下げた。
あれ? なんか見かけと違って優しそうな人。
「大将、突然申し訳ない。」
「何おっしゃいます? 樋口様なら予約なんぞいりやせん。 いつでもいらして下さい。
いつ来て頂いても良いように、仕込んでますから?」
「有難う。」
「いつものように、お出しして宜しいですか?」
「うん。俺は任せる。 コスモスは好きな物頼みな?」
「お嬢さんお好きなものがあったら、仰って下さい。」と、大将は言ってくれた。
好きな物って…
私の知ってるお寿司屋さんは、回転寿司か、値段の表記された立ち食い寿司屋しか、行ったことがない。
値段の無いお寿司屋さんなんて、怖くて頼めやしない。
「じゃ、私もお任せでお願いします。」
「畏まりやした。 握らせて貰う前に、樋口様、紹介して下さいよ? 此方は婚約者様ですかい?」
「近々そうなるかも? ね?」と樋口さんは、私を見て楽しそうに笑う。
「なりません! ほんの少しだけ知人の、秋 桜です。」と、言うと、間をおかず、
「一夜、いや、1週間? 共にした、コスモスです。 宜しく?」と、ふざけた様に言う樋口さんに、腹が立った。
「樋口さん!?」
ムキになる私を見て、樋口さんは楽しそうに笑った。そして、大将や女将さんまでも、「結婚式には呼んで下さいましよ?」と笑っていた。
絶対誤解された…