彼が残してくれた宝物
んー頭痛い…
あー昨夜、慣れない燗酒吞んだんだ?
えっ!?
慌てて飛び起きたが、幸いな事に自分の部屋だった。
「良かった…」
樋口さんが送ってくれたんだ?
「しかし、私どれだけ、あの人に迷惑かけるのよ…?」
「あっ仕事!」
嘆いている場合じゃない。
急がなきゃ、遅刻だ!
「今日はコンビニだな?」
いつもお弁当持って行ってるが、今日は作ってる、時間もない。
仕方ない。
お弁当は諦めるか?
私は慌てて支度をした。
玄関を出ようとした時、テーブルの上にある紙袋に目がいった。
「なにこれ?」
袋の中には、品のある重箱が入っていた。
蓋を開ければ、美味しそうな穴子ちらしが入ってる。
「あっ昨日の…」
樋口さんが置いて行ってくれたのだろう。だが、今はそんな事考えてる時間はない。
私は急ぎ、紙袋を持ち、仕事へと向かった。
昼休憩、いつもの様に会社の屋上で、昼食を食べることにした。
樋口さんが置いて言ってくれた、穴子のちらし寿司は、とても美味しくて、結構な量が入っていたが、朝も食べてなくて、お腹が空いていたので、ペロリと食べてしまった。
昨夜の食事代にしろ、タクシーで送ってもらって…
お礼を言いたくても、樋口さんの連絡先を知らない。
勿論、家は知ってるが…
だが、家には行きたくない。
これ以上親しくなりたくないのだ。
失礼かも知れないけど、樋口さんの事は、このままにしておこう。
仕事終わりにデパートに寄り、お菓子を買った。
昨日のお寿司屋さんへ、お礼に行きたかったからだ。
しかし、紙袋に書いてある名前を、ネットで調べても、なかなか出てこなくて、全く分からなかった。
もしかしたらと思い、派遣会社の社長に聞いたら、知っていた。
『雅寿司さんは、一見さんお断りよ?
馴染みのお客さんでも、なかなか予約取れないくらいだから?』
「え? そんなに?」
『大企業の社長さんの紹介じゃないと、予約も取れないわよ?』
え?
じゃ、予約しなくても入れる樋口さんって…
何者なの…?