彼が残してくれた宝物

土曜日の朝早く、樋口さんは、約束通り迎えに来た。

え!? こんなに早く?

「まだ、コーヒーも飲んで無いのに…。」

「じゃ、何処かカフェに入ってから買い物に行こう?」

近くのカフェに入り、朝食を済ませて出かけることにした。

「どこへ行くの?」

「買い物?」

まさか、こんなに早くから、食品スーパーに行くわけもないでしょ?
だから、なにを買うのかって聞いてますけど?
彼は、決めてないと、言っていた。

仕方なく、そのまま彼について行った。
彼の車で街にでて、何を買うでもなく二人でぶらぶらした。

こんなデート? 初めて…
普通のカップルは、こんな風にデートするんだろうな…

私達は色んなお店を見て回り、楽しい時を過ごしていた。
だが、朝入ったカフェで、若いカップルの話していた言葉が私の耳から離れなかった。

彼らはあれから、ペアーリングを選びに行くところだったのだろう。

『ミキ、一生幸せにするからな?』
『浮気したら、許さないからね?』
『絶対しない。一生ミキだけだと約束する! その為の指輪を選ぼう?』

伊藤課長も、きっと、奥さんに誓ったのだろう。
だが、その約束を、破らせたのは私だ。
なんて罪深い私…
私が、こんなデートをしていて良いのだろうか…

「本当に何も欲しいもの無いの?」

「はい。」

こんな当たり前のデートが出来ただけで、私は、幸せだ。

彼は高級ブランドの洋服やアクセサリーショップへと入ろうとするが、全て私は断っていた。
どんなに高価な物で着飾っても、私の醜さは変わらない。
人殺しの私には着飾ることも贅沢品を持つことも相応しくない。

「すいません…可愛いげの無い女ですよね?」

せっかく、彼が買ってくれると言うのに…
普通の女性なら、喜ぶことも、私には出来ない。

「そんなこと無いけど…じゃ、お揃いのマグカップなんてどう?」

お揃い…?




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