彼が残してくれた宝物

それからは、毎週金曜日の夜、樋口さんは私の部屋を訪れ、体を重ね愛し合う様になった。でも、最後まではしない。 私が泣いてしまうからだ。

「なぁ? 桜の秘密。
まだ、俺に教える気にならないか?」

「え?」

「俺に抱かれるとき、いつも泣くだろ?
桜の悲しみを少しでも減らしてやりたい。
俺では無理か?」

「徹さん…」

真っ直ぐ向けられる瞳に首を振り、私は自分の罪を話した。

「なんだ、終わってる話か?
他に好きな奴でもいるのかと思った。」

え?

「私の話聞いてひかないの?」

「何故? 間違ってるだろ?
罪があるから、幸せになれないなんて?」

「不倫して、終いには相手を自殺に追い込んだんだよ?
奥さんに頼まれたのに?」

「それって、本当に自殺なのか?」

「え?」

「桜がそこ迄罪悪感を持ってるなら、明日、二人で調べて見よう?」

「調べる?」

「調べたら、ひょっとして違う結果が出るかもしれないし? もし、結果が同じだとしても、状況は今より悪くはならないだろ?
俺はどんな結果でも、今まで通り桜を愛するって誓う。」

徹さん…

「な? 俺と調べよう?」

「…うん。」

徹さんの言う通り、どんな結果でも、これ以上悪くなることは無い。
同じ結果でも、徹さんが居てくれるなら私は生きていける。

翌日、徹さんと、図書館へ向かった。

「名前ってなんて言うの?」

「…伊藤…伊藤伸晃さん…」

過去の新聞を閲覧したが、亡くなった日にちが分からず、探すのに苦労していた。

「見つからないな?」

「ごめんね? 疲れたでしょう? もう、諦めよう?」

「なぁ、元彼の家に行って、親族に会って聞いてみよ?」

「伊藤課長の家は行ったことない…から、知らないの。」

「一度も?」

「うん。… もし、奥さんの耳に入ったら… 奥さん気分悪いと思ってたし…」

「そっか? じゃ、以前働いていた会社の同僚に聞けないか?」

「…うん… 聞いてみる…」

聞いてみると言ったものの、なんて聞こう?
今さら、課長の住所聞いてどうするのかって言われないだろうか?
もし、言われたら、なんて言い訳する?

徹さんは、私が迷ってることが分かったのだろう。

「俺が会社に聞こうか? 知人とか言って?」

「ううん。いくら知人でも、家の住所まで教えないと思う。
来週にでも、前の会社に電話してみるよ?」

月曜日、元同僚だった人へ電話したら、簡単に教えてくれた。




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