彼が残してくれた宝物

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 私は伊藤伸晃の妻、真由子と申します。

 突然の手紙で嘸かし驚かれた事でしょう。

 実はずっと、手紙を書く事を迷っていました。

 でも、残り少ない時間を知った今、悔いを残したくないと思いペンを取りました。

 今まで彼を支えてくれて、有難うございます。

 本当に、あなたには感謝しています。

 私は身体が弱く、彼の子供を産んであげることが出来なかった。

 子供が大好きな彼に申し訳ないと思い、何度も別れを告げようと思いました。

 でも、出来なかった。

 彼を失ったら、病に向き合っていく自信がなかったのです。

 あなたという存在を知っても、彼を手放せなかった。

 優しい彼が、別れを言い出さない事をいい事に、私の病という鎖で、彼をつなぎとめてしまっていました。

 本当に彼には申し訳なく思っています。

 あなたにも…

 あなたが彼の側にいて、支えてくれたから、彼は私に優しくしてくれたました。

そして、彼が私を側で支えてくれたお陰で、私は今まで生きてこれました。

ですが、それももう長くない様です。

私がこの世を去ったら、私の代りに彼の子供を産んで彼を幸せにして下さい。

勝手なお願いだと分かっていますが、彼を幸せに出来るのはあなただけなのです。

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