彼が残してくれた宝物
「兄は義姉に、貴女と付き合ってる事を話してました。」
え!?
「兄は、妻に不倫してる事を話す様な人なんです。
とても弱い人じゃ無いですよ? 寧ろ、神経の図太い人です。 実の兄ながら酷い人だと僕は思います。
でも、義姉はそんな兄を許してた。
寧ろ喜んでいたと言った方がいいかもしれません。 兄の子が産めない事に、負い目を感じてましたから?
ひょっとしたら、兄もまた、義姉に負い目を感じさせない様にと、貴女との事を話していたのかも知れませんが…
今となっては、もう知るすべもありませんけど?」
お互いを想っての事。
「ところで、そちらの方は?」
「あっえーと…」
「恋人です。」
徹さんは、私の言葉に被せる様に毅然と言ってくれた。
「そうですか… 恋人ですか?
兄達が貴女を好きになった理由が、わかった気がします。」
え?
兄達が?
「もし、そちらの方に飽きたら、是非、ご連絡下さい。」
と、彼は冗談を言ってにっこり笑った。
え?
「桜! 帰るぞ!?」
「えっでも…」
「事故だったって分かったんだ、もう、ここにいる必要ない! クソガキの相手してる暇なんて無い!」
徹さんは私の腕を掴み、伊藤課長の家から無理やり連れ出した。
もぅ… 彼は冗談で、言ったんでしょう?
なに、そんなに怒ってるの?
「あっ待って! まだ、事故現場が、どこか聞いてない!」
「はぁ? 自殺じゃないなら、もういいだろ?」
「良くない! 事故だろうと、亡くなったのは、事実なんだから… せめて、お花をたむけたい。」
「ちっ…分かった… 俺が聞いてくるから、桜はそこのファミレスで、待ってろ!」
「う、うん。分かった。 でも、さっきみたいに、声を荒立て無いでね?
彼は、冗談で言ったんだからね?」
「分かったから、心配するな!」
そう言って徹さんは引き返していった。
本当に大丈夫かな?