彼が残してくれた宝物
「良かった…心配したわよ?」ほっとした顔を見せる母。
「ごめん…」
「相手は何処のどいつだ!?」
いつも穏やかな父が鬼の様な形相で訳のわからないことを言う。
「お父さん落ち着いてください。 桜も目が覚めたばかりなんですから、少し落ち着いてから話しましょう?」
「俺は許さんからな!? 結婚もしてないのに子供なんて!?」
「ちょっちよっと待って! 子供ってなんの話?」
「桜、あなた妊娠してる事知らないの?」
母の問いかけに、父が何を怒っているのか、やっと分かった。
えっ?
妊娠…?
私が…?
最近少し食欲は無かった。
でも、疲れがたまると、よく有ることで、生理不順も毎度の事。
だからなにも心配してなかった。
でも、そう言われたら、長すぎる。
「父さんはシングルマザーなんて許さないからな!? 直ぐに籍だけでも入れて結婚しろ!」
そっか…
妊娠してたのか…
お父さんが怒るのわかるわ…
温厚な人だけど、考え方はまだ古い人だもんね?
でも、ごめんね?
「結婚は出来ない…」
「結婚出来ないってどう言うことだ!?
まさかお前… 相手は妻子持ちじゃないだろな?」
「違う!
兎に角、結婚出来ないの!
でもこの子は産む!
彼の子だから!
彼が私に残してくれた宝物だから…」
「馬鹿な事言うな!
子供育てる事がどれだけ大変なことか、おまえは分かってるのか!?
そんな苦労大事な娘にさせられるか!
悪い事は言わない。
結婚出来ないならおろしなさい!
おろすのは早い方がいい。
母さん医者に連絡しなさい!
直ぐにおろしてくれと言ってきなさい!」
「いやっ!!
誰がなんと言おうと私は産む!」
こんなところに居られない。
このままだと、なにされるかわからない。
この子を守れるのは私だけ。
この場から逃げるべく、左腕に刺さっていた点滴の針を自ら抜き、ベッドを降りた。
「桜! 落ち着いて?
体にさわるわ? お父さんも、落ち着いて下さい。
桜は、妊娠知らなかったんですよ?
今は気が動揺してるんです。 少し考える時間をあげてください?」
母は私をベッドへ戻し、ナースコールを押した。
「違う! 動揺なんてしてない!
ちゃんとわかってる! 離して!」
駆けつけた医師によって、鎮静剤を打たれ、私は眠った。