彼が残してくれた宝物
シンデレラ
「こんちわ!」
「あれ? 木場さん今日はどうしました? 昨日預かった車なら、まだ終わってませんよ?」
木場さんは、お得意先である、木場運送の社長の息子さんで、私より5つ年下の人懐っこい人、私にも気軽に話しかけてくれる。
でも、運転が下手なのか荒いのか、よく車ぶつける様で、うちの会社へ度々修理に持ってくるのだ。
私は以前、契約会社の社長に紹介してもらったS商事に勤めていた。
だが、子供達が生まれるにあたって、保育園の送迎などの都合で、引っ越しをする事になり、S商事を辞めさせて貰った。
そして、S商事を辞める際、S商事の社長から、ここ佐野鈑金を紹介して貰ったのだ。
私は本当に、沢山の人達に助けられている。
「桜さん、今日こそは俺に付き合ってよ? 俺、今日給料日だし、仕事終わる頃迎えに来るからさ? 美味しいもの食べにいこうよ? ご馳走するから?」
木場さんはよく食事に誘ってくれる。
それを毎回断るのが、気が重いのだ良い人だけに。
「すいません… 今日は予定があって、今から早退するんです。」
「え? 早退ってなに? 先月も早退してなかった?」木場さんの突っ込みに困ってしまう。
木場さんの言う通り、先月も早退してる。
先月だけじゃなく、毎月、この日25日は、社長に無理を言って早退させてもらってる。
「車をぶつける様な、下手な運転する奴の車なんて、怖くて乗れねぇーよな?」と、うちの社長が言っていつも助けてくれる。
「もぅ社長ー! 桜さん乗せる時は安全運転しますって! だから、ねぇ? 桜さん行こうよう?」と、両手を合わせ拝む様に懇願される。
「すいません… 。今日は、どうしても予定があって…。」
「えー。いつも予定が有るって、付き合ってくんないじゃん?」
申し訳ないが嘘ではない。
本当に予定があるから仕方ないのだ。
「ホント木場さんはKYですよね? 何度断られたら分かるんですかねぇ? 木場さんは、桜さんにとって論外なんです!」
「紀美ちゃん、そんな言い方酷いよー?」
紀美ちゃんは、うちの社長の娘さん。
私の予想だと、紀美ちゃんは木場さんの事が好きだと思う。
木場さんも気付いてあげれば良いのに…
「本当の事ですよ! ねぇ桜さん?」
笑って誤魔化し「本当にごめんなさい。」と私は頭を下げた。
「あっ桜さん、時間時間! デートに遅刻しますよ?」と、君美ちゃんは教えてくれる。
そんな紀美ちゃんの言葉に、木場さんは驚く。
あらら…変に誤解しちゃうよね?
でも、今の私にとって大切な恋人の様なものだ。
「えっ!? 桜さん恋人居ないって…居たのに?」
しょげる木場さんに、さらに紀美ちゃんは、「凄いイケメン君が二人も居るのよ?」と、可笑しそうに言う。
「桜さん本当ですか…?」
私は苦笑して、「すいません。 お先に失礼します。」と、その場を逃げた。