彼が残してくれた宝物
私を間に奏輝と律輝、三人で手を繋ぎ、バスと電車を乗り継ぎ、二人のパパが眠る、丘の上の霊園へと向かった。
この霊園にある徹さんのお墓は、たまたまみつけた。
父方のお墓参りに来た際、子供達と見つけた音がなるお墓。
良く聴くと、流れているのは、徹さんの代表作の “さくら” が流れていた。
そして、墓石には、ピアニスト・樋口 徹 ここに眠る。と刻まれてあった。
それ以来、徹さんの月命日の25日には、子供達と一緒にお参りに来てる。
そして、今日は、9月25日、徹さんの命日。
霊園の入り口で、水を用意していると、突然、奏輝が「あっ! パパだ!」と、叫び走り出した。
「奏!」
そして、突然走り出した奏輝を捕まえに、律輝が走っていってくれた。
「奏! 走ったら、ダメだって言われてるだろ!?」
「だって、パパが居たんだもん!」
「んなわけないだろ!?」
「本当に居たもん!」
「居ない!」
「居た!」
「こらこら、ケンカしたらダメでしょ? 二人が喧嘩してると、パパも悲しむよ?」
「でもママ… 本当にパパが居たんだよ? 知らないおじさんと2人で!」
子供達は徹さんを知らない。二人が産まれる前に亡くなっているから、写真というものもない。
ただ、ネットに出てる徹さんの写真を、私が毎日二人に見せている。
多分、同じ様な年代の似た人を見たのだろう。
「そっか? 奏にはパパの姿が見えたんだね? 良いなぁ… ママもパパに会いたいなぁ… 律もパパに会いたいよね?」
律輝に話を振ると、律輝は驚いた顔をしている。
「律輝?」
「パパ…だ。」
「え?」
「パパだ!」と、律輝が指を指す方を見ると、そこには、居る筈のない彼が居た。
え?
嘘…
あまりにも、会いたいと願っていたから、幻でも見ているのだろうか?
「桜。」
声まで聞こえる…
徹さんの声…
幻でも良い。
徹さんに、また会えるなんて…
あまりの嬉しさに涙が溢れてきた。
「ねぇ? パパ居たでしょ?」
奏輝の言葉に、私はただ頷いた。
このまま消えないで…
「幽霊でもなんでも良い。 このまま私達の前から消えないで…」