彼が残してくれた宝物
奥さんは泣きながら書いたのだろう。滲んだ文字がいくつもあった。
奥さんは、彼と私の仲を随分前から…知っていた?
どんなに辛かっただろう…
愛する人が自分を裏切り、他の女を愛し抱いている事を知って…
裏切っている夫を責めることも出来ずに、残り少ない自分の命と向きあっていた奥さん。
手紙を読み終わる頃には、涙で何も見えなくなっていた。
暫くして、彼の奥さんが亡くなり、私は、同僚達と葬儀に参列した。
それは亡くなった奥さんに謝罪する為にだった。
いくら謝っても許される筈もないが、私を責める事もせず、彼の幸せだけを願って亡くなった奥さんへ、せめて謝罪をしたかった。
自己満足と分かっていても、せずには居られなかった。
祭壇の遺影で初めて見る奥さんは、優しく微笑んでいて、とても美しい人だった。あの微笑みは愛する彼へ向けられたものだろう。
『いつまでも、私はあなたを愛してます。』
そう言っているように、私には見えた。
奥さんは、
どれ程、悔しかっただろう…
どれ程、心残りだろう…
そう思うと涙が溢れ止まらなかった。
彼は愛する妻を亡くし、憔悴しきっていた。
彼もまた、奥さんを心から愛していたのだろう。そんな彼に、私は何も声を掛ける事が出来なかった。