彼が残してくれた宝物
番外編
「とお…誠さんは…」
「まだ呼び慣れないようだね?
ちょっと徹に焼けるなぁ」と、彼は私の耳元で囁いで、首筋にキスを落とした。
「キャッ!」
体をビクつかせる私を見て、彼は楽しそうに笑ってる。
「そんなに驚く事?」
カウンターの上に置いていた私の手に、彼の大きな掌がかさなり、彼の温もりを感じると同時に、幸せを感じる。
「だって…こんな事されるの久しぶりで…」
「じゃ、ずっと喪に服してたの?」
「勿論よ」
「桜ってそんなにモテなかったんだ?」
それってどういう意味なのかしら?
私だって、それなりに声も掛かるし、デートのお誘いぐらいあったわよ!
でも…
徹…誠…あなたの存在が大き過ぎて…
他の人になんて…
考えられなかった…
考えただけで涙が溢れてくる。
「桜…」
涙を一生懸命堪えながら私は言った。
「モテない訳じゃない。声掛けてくれる男《ひと》もいるし、仕事先に、食事に誘ってくれる歳下の男の子だっているよ?
別に誠じゃなくても…」
言い切る時には、既に涙で顔はぼろぼろになっていた。
子供達の前では、これからは一緒に私を守るって約束迄してたのに…
誠が嫌なら、この先も一緒に歩まなくてもいい。
私には奏輝も律輝もいる。
それにお父さんも、お母さんも私達の側に居てくれる。
「誠の言いたい事…分かった…じゃ、子供達が待ってるから」
“ さようなら ” を言おうとした時、誠は立ち上がり “ 帰ろう ” と、言った。
え?
「急にお邪魔しては、失礼なのは分かってるけど、今すぐ、桜のご両親に今迄の事の説明と謝罪、それから桜との結婚の承諾を貰いに行こう!」
え!?
「誠?」
「桜、明日も仕事なんだろ?」
「え、ええまぁ…」
タクシーを呼んでもらい、慌てる様に誠と一緒に自宅へと帰って来た。