体温が2℃上がった夜の話
私と高屋は同じ会社に勤める同期で、今日は久しぶりの同期会だった。

同期の人数は全部で十数名。入社後1ヶ月間の研修時こそ全員揃って本部にいたけれど、それが終われば各々の配属先の支店に散り散りになってしまった。

そうなるとみんなが顔を合わせる機会といえばたまにある研修会か、誰かが仕切って飲み会をセッティングしたときくらい。

最初の頃は何かと理由をつけてしょっちゅう開催していた同期会は、入社2年目に突入したあたりからめっきりその頻度を減らしてしまっている。

今回は、約2ヶ月ぶりの集まり。……つまり高屋とこうして会ったのだって、もう2ヶ月ぶりだ。



「もーすぐ冬かあ……肌が乾燥するのは嫌だけどコタツは好き。あっ、今日は月が綺麗。なんか歌いたくなるよね」

「脳ミソ通さずに口だけでしゃべってるな上野。支離滅裂でどこからツッコんでいいのかわかんねぇし、もういいからおまえ寝てろ」

「えっもしかして私の胸背中に当たっちゃってる? ドキドキさせちゃってる??」

「悪いがささやかすぎてまったく気にならないから、あと2カップ上げて出直してこい」



アルコールに侵食された頭でも相当失礼な発言をされたことはわかったので、とりあえずこしょこしょと首筋をくすぐってみる。

けれどそういえば高屋は、くすぐりが通じない特異な人だった。「何やってんだよ」と呆れたように言われただけで、夜道を歩く彼の足は止まらない。


こんな打てば響く高屋と私のやり取りは、同期として知り合った当初から、もうずっと繰り返されてる。

まるで歯車がかっちり噛み合うように、テンポ良く憎まれ口を叩き合う私たち。

それを見ていたまわりの同期たちは、そろって「ほんとおまえら、長年連れ添った夫婦みたいだよな」とおもしろ半分苦笑半分にはやしたてた。


──でも。
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