体温が2℃上がった夜の話
「何それ。そもそも付き合ってもないけど??」



いつだって平然と、私たちが返す言葉も決まりきっていて。

そのくせ「さっすが私の高屋」だとか「上野は俺のこと大好きだからな」とか、顔を赤らめもせずに軽口の延長でそんなやり取りもするもんだから。最近では同期たちもいちいち口を出さず、ただただしょっぱい顔をして私たちのことを見守るようになっていた。



「高屋ぁ、暑い。高屋の背中あっつい」

「おまえのからだの方があちーわ」

「やだーその言い方なんかえっちぃ」

「……たかだかカシオレ3杯でそこまで酔えるおまえ逆にすげーな、うらやましい」



さっきから、高屋はため息ばかりだ。

ふふふ、と笑みをこぼして彼の首筋にすり寄る。



「ねぇ、よく見てるね、私のこと」

「………」



私が高屋にしがみつく手の力を強めた瞬間、彼のからだが一瞬だけこわばったのには気付いていた。

けれどもそんなのは気のせいだったと思うくらい、高屋は呼吸も歩調も乱さず、私をおぶったままひたすら足を進める。



「上野さ、マジで今後飲み過ぎに注意しろよ。特に、男がいる飲み会は」

「どうして?」

「男はみんなオオカミだって、習わなかったか?」

「ふーん。じゃあ、高屋は?」

「……期待に添えなくて悪いけど、俺は生まれてこのかたずっとニンゲンです」



なにそれ、矛盾してる。おどけたように話す高屋の顔を、後ろからこっそり盗み見た。

ちょっとだけ口元が上がっている。だけどこれは、ホントの”笑顔“じゃない。



「……期待? 期待って、なんのこと?」

「さっきみんなが俺に上野のこと押し付けたとき、おまえ何のためらいもなく俺の背中に乗っただろ。だから、俺に襲って欲しいのかなって」
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