体温が2℃上がった夜の話
「いいよ。今度はもっとちゃんと、『あんなこと』してよ」

「おまえな……この状況で言うことじゃないからな、それ」



ため息をついて、高屋は私を背負い直す。

その足が動かないのは、きっとまだ、迷っているから。



「……『高屋は私の親友』って、上野が最初に言ったんだ。おまえが俺に望んでたのは『友人』の座だったのに、それを俺からぶち壊すわけにはいかねぇだろ」

「でも、抱きしめたくせに」

「……そうだな。今後は勢いあまった行動をとらないように飲み会は気を付ける」



拗ねたような表情でまた前を向いてしまった彼に、くすくす笑う。

大好きで落ち着く匂いがする首筋へと、そっとひたいをくっつけた。



「今は、気を付けなくていいけどね?」

「……結構とんでもないこと言いますね、上野サン」

「これでも勇気出して言ってるんですよ、高屋サン」



今日何度めかのため息は、今日1番長いものだった。

たっぷり息を吐いた高屋はおまけに舌打ちまでして、くるりと方向転換し歩き出す。



「どこ行くの?」

「俺んち。上野んとこよりこっちのが早いだろ」



私の問いに答える彼は、なんだかいろいろ吹っ切れたらしい。さっきまでの私を気遣うような歩調はやめてただひたすらに急いたものへと変わっている。

その余裕のなさがくすぐったくて、どうしようもなくドキドキして、うれしい。



「なあ、すっげえ今さらでわかりきったこと言うけど。俺、上野のことすきだよ」

「ほんとにわかりきったことだね? 私なんて、高屋のことだいすきだよ」

「ああうん、知ってる」



何度も繰り返した『好き』に隠された本音を暴いて、答え合わせをした夜。

やわらかい風に髪をなびかせながら、彼の背中の熱さに比例して体温が2℃上がった気がした。










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