榛色の瞳を追って
「兄さん、どうしたんですか?」

「麗華が着替えさせてくれないから、お前が着替えさせてやってくれ」

子どもの着替えをやる父親はとても珍しいと、女学校の友人は言っていたのですが、最後はこうなってしまううちの兄さんはそこらの父親と変わらないと思います。

「いつも着替えさせてやってくれって言われても、私にも支度というものがあるんですけど…」

「お前はいつでも出来るだろう」

「女の子は支度に時間がかかるんです」

「麗華も女の子だろう」

文男兄さんと私は、元々15歳という年齢の開きがあるので喧嘩になることが少ないのですが、他の兄や姉が家を出たことで言い争うことが増えてきました。
大正の自由な雰囲気の中で育ったとはいえ、明治生まれの頑固さも持ち合わせているのです。

ちなみに、末っ子の昭男は大正11年生まれですので、兄さんとは20歳も離れているのです。

「……しょうのない人」

「悪かったな」

けれど、一番上の兄が相手だからでしょうか。 9人きょうだいの下から数えた方が早い私は勝てないのです。

「さぁ麗華ちゃん、今日もちさちゃんと一緒に着替えようね! どのドレスがいーい?」

『ちーちゃん』だと、あさの呼ぶ『ちい姉ちゃん』(小さな姉ちゃん)と一緒になってしまいそうで、姪の前では自分のことを『ちさちゃん』と呼んでいます。










※作者注;年齢の数え方は明治35年(1902年)12月2日に出された『年齢計算ニ関スル法律』で満年齢で計算すると法で定められましたが、実際は太平洋戦争終結まで数え年が主流だったようです。 この物語では全て数え年で年齢を表しています。

参考までに、主人公のちさは大正6年(1917年)3月15日生まれで、昭和8年(1933年)4月現在満16歳、数え17歳です。
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