榛色の瞳を追って
兄さんに言われたことが心から離れないまま、私は礼拝の準備をしていました。

地元の信者の方以外にも、親類など今まで教会に来たことのない方やクリスチャンではない方に貸し出す聖書や讃美歌を礼拝堂に置きます。 私は音楽が少しできるので、オルガンで讃美歌の練習をすることもあります。

「そういえば、上村さん聞いた?」

「なあに、山口さん?」

女学校の同級生だった山口さんは、小さい頃から毎週のように礼拝でお見かけします。 国文科の彼女と家政科の私、学科こそ違いましたが、同じ学校に通えると知ったときは二人でとても喜びました。

「教会学校の方に新しい先生がいらっしゃるんですって」

「教会学校に? 聞いていないわ。 この間のご報告でもそんなお話は…」

『報告』とは、教会学校の最後に行われる、学校でいう帰りの会のようなもののこと。
新しい友達の紹介や、お知らせなどを『報告』します。

私は今年に入ってから教会学校の奏楽の担当に入ったので、運営に関わることが増えました。

「ああ、あの方じゃない? 見慣れない顔だわ」

「え?」

山口さんの差す先に、礼拝堂で週報らしき冊子の束を持つ男性がいました。 手伝いの信者の方とも打ち解けられて、優しそうな笑顔が印象的です。

「あの方って…」

サァーっと、血の気の引く音が聞こえてきそうでした。

「どうしたの?」

新しい先生と噂されている方は、私が先日道案内をした英国紳士だったのですから。










※作者注;昭和初期の礼拝の様子は詳しく分からないので、現代の礼拝の様子に近い描写をしています。 また、教会学校の設置された教会に通ったことがないので、教会のホームページを参考にさせてもらっています。 ご了承下さい。
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