白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
 「沙織、沙織。こんなところで寝ちゃ風邪引くわよ」と沙織を起こし、僕らは自分たちの部屋。沙織の部屋に戻った。

 思い出を作ろうと始め僕たちは遊園地に行ったり、水族館に行ったり、一緒に買い物に行ったりあちこち歩き回った。でもそんな思い出より、ただ二人で手を繋いでいる方が二人の思い出になっている。


何もしなくても、ただ手を繋ぎ、肩を寄せ合い何もすることなく、ただ一緒に居るだけで……十分だった。


 ある日僕らは、あの暑い8月にヘルプに行った店へ行った。

 もう12月ともなれば、そこに居る客は簡素なほど少なかった。

 僕らの事を覚えていてくれたメンバーが「お久しぶり」と優しく僕らに微笑んでくれた。あの頃を思えばとても寂しく感じてしまった。

「お客さんいないね」「そうだね。あの頃が嘘のようだ」

 沙織は微笑んで「ほんと嘘みたい」と懐かしんでいた。

 「ねぇ。海岸行ってみない」「寒いよ」「いいの」

 誰もいない冬の海岸。

 砂浜に波が打ち寄せ、その音だけが耳に響く。

 柔らかい陽の光に冷たい海風。少し肌寒い。

 二人で波打ち際を手を繋いで歩いている。時折来る強い波を警戒しながら。

 「少し寒いな。大丈夫か」「うん大丈夫」

 僕が「なぁ」と話しかけたとき、沙織も「達哉」と僕の名を呼んだ。同時に。

 僕は「先にいいよ」と沙織は「ううん、達哉先に言って」と答えた。

 それじゃと僕が先に言った。

 「なぁ、沙織。あの大賞も次期発表なんだけど、結果駄目だったら許してくれる」

 沙織は少し俯いて「うん」と答えた。

 「うん。結果なんてその時の運よ。優子さんも言っていたじゃない。それに、あの小説は二人の思い出なんだもの。ほかの人が読んだって解んない事だらけよ。それが解るのは私たちだけ。そう、私たちの小説なんだもの」

 「うん。そうだね。ありがとう」そして

 「沙織」「なあに」


 「沙織、年が明けたら、新年になったら。僕の両親に会ってほしいんだ。沙織を僕の両親に紹介したい。僕を生んでくれて一生懸命僕を育ててくれた両親に。そして、僕の母親に……僕の両親の娘になってほしい」


 「達哉」


 沙織は顔を上げ、僕を見つめてた。そして涙を流しながら


 「はい」と答え微笑んだ。自分は本当に幸せだとその顔から滲ませながら。
< 102 / 125 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop