白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
 それも彼女の想いからなる事は十分に僕は感じ取っている。

 僕が彼女と一緒に作家への活動を始めて間もなく、優子はあのマンションから、海と山が望める小さな町に引っ越した。もちろん僕も一緒に行くと言う条件で……

 「そろそろここも契約更新だし、この景色も飽きちゃった」と言ってはいたが、僕への配慮である事は言うまでもなかった。

 新しい環境で僕は、自分の物語を彼女の暗黙の指導のなか、執筆をさせてもらった。

 彼女の実母。そして作家である「榊枝都菜」は彼女に手紙を送りつつも、その中に僕の事もねぎらいそして励ましてくれた。

 そして美野里もその彼女、榊枝都菜の元で自分の小説を書きながら頑張っていた。

 美野里も僕が優子と一緒にいることを知り、「いっその事子供でも作ったら」なんて茶化していた。でも僕のあの……あの今も鮮明に残る記憶に美野里らしく言ってくれた事だと思っている。

 そんな美野里もようやく日の目を見た。

 美野里の作品が、かの有名な大賞に選ばれたからだ。


 美野里の作品 「私に声をくれた人」

 このタイトルを見て、美野里が今でも僕の事を思ってくれている事が感じられた。

 でもその内容は、あの時図書館で僕が黙ってみた彼女の小説を主軸に彼女の気持ちの変化を映した物語だった。
 僕と目ではなく想いの中で出会い愛しそして別れた。

その時の主人公の気持ちを、美野里の気持ちを多分素直に表したものだと思う。

 それはようやく美野里が、僕と言う心の想いから卒業できたことを報告していた様だった。


 「私に声をくれた人」第○○回○○○賞受賞 冨喜摩 美野里 

 彼女の物語に付けられたキャプションは

 「初めて出した彼女の声は 天使の囁きだった」

 まさにその通りだと思った。
 
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